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名古屋地方裁判所 昭和47年(行ウ)16号 判決

愛知県尾西市東五条字西大堀四の一

原告

金森礼次

右訴訟代理人弁護士

石川康之

成瀬欽哉

同県一宮市明治通二の四

被告

一宮税務署長

伊藤新吉

右指定代理人

遠藤きみ

渡辺宗男

山村二郎

大山義隆

杉村功

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告の昭和四三年分、同四四年分の所得税について同四五年一〇月三〇日付でなした各更正処分ならびに同四四年分過少申告加算税賦課決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は昭和四三年分、同四四年分の所得税確定申告についてそれぞれ別表(一)(課税処分表)の各「確定申告額」欄記載のとおり申告したところ、被告は昭和四五年一〇月三〇日付で同別表の各「更正および賦課決定額」欄記載のとおり更正および過少申告加算税賦課決定をなした。原告は昭和四五年一二月三日異議申立をなし、被告は同四六年三月一日付でこれを棄却する旨の決定をなした。原告はさらに昭和四六年四月二日審査請求をしたところ、国税不服審判所長は昭和四七年三月三一日付で棄却の裁決をなした。

2  しかしながら、本件各更正処分は次に述べるとおりいずれも適法手続にもとづかず、かつ理由のない推計課税によるものであるから違法である。

(一) 更正処分は国税通則法二四条に従い納税申告書に記載された課税標準・税額等が税務署長の調査したところと異なる場合にその調査に基づいて行なわれるが、右の調査は納税者に権利・利益を保護する手続としての意味を有し更正処分の前提条件をなしている。従って右の調査に瑕疵があれば更正処分自体が違法になるものと解すべきである。かくて納税者に対し憲法三一条の適正手続保障の趣旨に従った実質的な救済が与えられることとなる。

そして申告納税制度の下では納付すべき税額は納税者の申告によって確定するのが原則であり、しかも調査によって納税者に事実上重大な不利益を与えることは明らかである。従って調査権の行使が許されるのは当該申告書の記載が適正でないことにつき合理的な疑いの存するときに限られる。そして税務調査が国税犯則取締による強制調査とはその本質を異にする任意調査であるから、調査対象者が任意適切に応答できるように調査理由を具体的に明示してなすべきである。さらに調査深度にしても任意提出にかかる帳簿書類等を検査することができるのみで、納税者の営業活動を停滞させたり得意先等に対する信用を失墜させるような態様においてなすことは許されない。とりわけ反面調査は納税者の信用を毀損するのみならず調査の対象とされた第三者の営業活動にも重大な支障を与えるから、納税者に対する直接調査だけでその目的を達しえない事項に限ってなすことができるものである。

本件において被告は原告提出の昭和四三年分、同四四年分の所得税確定申告書の適正であることにつき何ら合理的な疑いの存する余地がないのに調査権を行使し、しかも調査理由を具体的に明示せずにかつ原告の営業上の都合を無視して一方的に反面調査を実施し、もって原告の信用を毀損したものである。従って本件調査手続には瑕疵があり、本件更正処分は違法である。

(二) さらに本件更正処分は理由のない推計課税によったものであるから違法である。

3  よって本件更正処分ならびに本件過少申告加算税賦課決定の取消を求める。

二  請求原因に対する被告の答弁

1  請求原因1は認め、2は争う。

2  (反論)

(一) 所得税法はいわゆる申告納税方式を採用し納税者が納付すべき税額はその者の申告により確定するのを原則とするが、最終的な税額の確定は税務署長に留保されその更正のないことを条件として当該申告が承認されるにすぎないものである。そして税務署長は納税者がその義務を正しく履行したか否かを常に調査する職責を有し、申告税額が自己の調査したところと異なる場合には、申告納税額に拘束されることなく国税通則法二四条にもとづきこれを是正しうるものである。

ところで右法条に定める調査は各税法に定める課税要件事実の充足を認識し租税債務額を確認するためのあらゆる行為を総称し、かつ更正処分に先行するが、だからといって法律上当然に更正処分の手続的な適法要件とされるものではなく、法がその履践を更正処分の要件として要求する場合に限って手続的な適法要件となる。しかるに国税通則法はもとより現行税法上その旨定めた規定は見当らないから、国税通則法二四条にもとづく調査は更正処分の手続的な適法要件ではないというべきである。

またいかなる場合にいかなる調査をなすかについては右法条その他の法律によるも何らその手続が定められていないから、調査の範囲・程度および手続等についてはすべて税務署長等の権限ある税務職員の合理的裁量に委ねられていると解すべきである。従って税務署長において過少申告と疑うにたりる事情の有無を問わず調査することも何ら妨げられるものではなく、調査の際理由を明示すべき義務もなく、またいわゆる反面調査の方法を採ることも妨げられるものではない。

(二) また、原告は本件更正処分が理由のない推計課税によると主張するが、被告が推計をしたのは次に述べるような理由によるものである。

すなわち、被告が原告の係争各年分の事業所得金額等につき昭和四五年六月ころから係員をして実地調査を行なわせたところ、原告は右係員の求めにも拘らず営業に関する帳簿書類を提示せず、本件係争年当時の営業概況および原告の申告にかかる営業所得金額の計算根拠等についても説明をなさず右調査に協力しなかったので、被告は右所得金額などを実額により計算することができなかった。そのため被告はやむを得ず、可能な限り原告の取引先等について原告との取引状況あるいは原告の事業規模などの調査を行なったうえ、合理的な推計により本件係争各年分の営業所得金額を算定し本件更正処分をなしたものである。

以上の次第であるから本件更正処分は適法であり、原告の主張は理由がない。

三  被告の主張

1  原告は肩書住所地において、本件係争年当時、繊維受託加工業(通称子機)を営んでいたものである。

2  営業所得金額の算定について

被告は前記のとおり原告の取引先等を調査して係争各年分の売上金額等を把握し、合理的な推計を施して係争各年分の営業所得金額を算定したもので、その額は別表(二)(営業所得金額計算表)記載のとおりである。

(一) 売上金額(収入金額)

(1) 昭和四三年分 一、九八六、二九二円

原告の昭和四三年中における親機である虫鹿株式会社加藤元、若山道直、岩重毛織株式会社、足立喜七、岩井明に対する売上合計額である。

(2) 昭和四四年分 二、三八四、九一二円

被告は右年分の売上先を把握することができなかったため、売上金額を実額で計算することができなかった。

しかしながら、原告の営む繊維受託加工業においては電力の使用量と収入金額との間に比例関係があるところ、被告の調査によれば原告の電力使用量は昭和四三年分が七、二九〇キロワット、同四四年分が八、七五三キロワットであることが判明した。

そこで前記昭和四三年分の原告の売上金額一、九八六、二九二円を同年分の電力使用量七、二九〇キロワットで除して一キロワット当りの売上金額を求め、さらに昭和四三年の工賃単価が同四四年に低下した事実はなかったので、右四三年分のキロワット当り売上金額をそのまま四四年分に適用し、これを同年分の電力使用量八、七五三キロワットに乗じて同年分の売上金額を求めると二、三八四、九一二円となる。

算式 昭和43年分売上金額 昭和44年分電力使用量

〈省略〉

(二) 算出所得率

(1) 昭和四三年分 六五・八九パーセント

算出所得率は算出所得金額(売上金額から特別経費以外の必要経費を控除したもの)を売上金額で除して得た割合をいうのであるが、被告は原告の納税地を所轄する一宮税務署管内において原告と同種の事業を営む個人の昭和四三年分青色申告者のなかから前記(一)(1)掲記の原告の売上先(親機)の下請加工を行なっているもので別表(三)(同業者選定基準一覧表)記載の基準に該当する者一〇名を抽出し、右一〇名を原告と同規模程度の同業者として選定し、これらの者の昭和四三年分の売上金額および算出所得金額をもとに別表(四)(算出所得計算表)記載のとおり同年分の平均算出所得率を求め、これを原告の同年分の算出所得率とみなした。

(2) 昭和四四年分 六五・八九パーセント

前記のとおり右年分の原告の売上先を把握できなかったので、右(1)の方法による親機を同じくする同業者の選定ができなかったが、昭和四三年・同四四年分につき算出所得率に差異を認むべき特段の事情もないので、昭和四三年分の算出所得率をそのまま同四四年分に適用した。

(三) 算出所得金額

原告の前記各年分の売上金額に前記各年分の算出所得金額を求めると

昭和四三年分 一、三〇八、七六七円

昭和四四年分 一、五七一、四一八円

となる。

(四) 特別経費

昭和四三年分 三〇九、六八三円

昭和四四年分 三四四、八七〇円

(1) 給料

被告は雇人の数、支払給料についても実額により把握できなかったので、次のとおり推計により算定した。

(イ) 雇人の数

原告はパート一人を使用したことがあると申立てたので、本件係争各年とも原告宅には家族以外の女子従業員一人が従事していたものと推定した。

(ロ) 支払給料

尾西毛織健康保険組合に所属する女子組合員の平均賃金(昭和四三年年額二四三、五四九円、同四四年二八三、四三九円)をもって原告の従業員一人当りの賃金とみなした。

以上により原告の係争各年分の支払給料は

昭和四三年分 二四三、五四九円

昭和四四年分 二八三、四三九円

となる。

(2) 建物減価償却費

係争各年それぞれ 八、三七〇円

(3) 地代家賃

係争各年分それぞれ 一五、六〇〇円

(4) 借入金利子

昭和四三年分 四二、一六四円

昭和四四年分 三七、四六一円

(5) 事業専従者控除額

係争各年分それぞれ 三〇〇、〇〇〇円

3  以上によれば原告の係争各年分の営業所得金額は別表(二)のとおり

昭和四三年分 六九九、〇八四円

昭和四四年分 九二六、五四八円

となるから右各金額の範囲内でなされた本件課税処分には何らの違法はない。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1は認める。

2  同2のうち(一)の(1)、(四)の(2)ないし(4)、(五)は認め、その余は争う。

昭和四三年分の売上金額について実額の確認ができるならば同四四年分についても当然実額による把握が可能であった筈である。推計は例外であり、安易に推計すること自体その不合理さを示すものである。さらに昭和四四年分には新しい機械を入れており、電力の使用条件に変化があるから被告の推計方法は不合理である。

なお、特別経費として被告主張の外に外注工賃がある。

第三証拠関係

一  原告

原告本人尋問の結果を援用し、乙第一、二号証の各一、二、同第三号証の成立を認め、その余の乙号各証は不知と述べた。

二  被告

乙第一、二号証の各一、二、第三ないし七号証を提出し、証人西野泰生、同小柳津一成、同酒井常雄の各証言を援用した。

理由

一  請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は被告のなした本件調査手続が違法であり従って本件課税処分もまた違法であると主張するので、この点につき先ず判断する。

所得税法はいわゆる申告納税方式をとり納税者が納付すべき税額は申告により確定することを原則としているが、最終的な税額の確定は税務署長に留保され、その更正のないことを条件として当該申告が是認されるにすぎないものである。そして税務署長は常に納税者がその義務を正しく履行したか否かを調査する権限と職責を有し、申告税額がその調査したところと異なる場合には申告税額に拘束されることなくこれを更正しうるものであり、しかも税務署長がいかなる場合にいかなる調査をなすべきかは法律に定めるところがない。従って税務署長は過少申告なることを疑うにたりる事情の存する申告について調査しうるのは勿論であるが、かかる疑いの存しない申告について調査することも何ら妨げられるものではなく、調査の結果過少申告なることを発見した場合には申告税額を更正しなければならないものである。

また国税通則法二四条、二六条、二七条等によるも右調査についての手続は何ら定められていないから、調査の範囲・程度および手段等についてはすべて税務署長等の権限ある税務職員の合理的裁量に委ねられていると解すべきである。従って右調査が実質的に不十分であったとしても、かかる事由は更正処分の違法事由とはならないものと解される。仮に調査が不十分であったため更正された所得金額ないし税額が不当であった場合には、そのことを理由として更正処分の取消を求めればたりるのである。

もっとも更正処分をなすにあたり税務署長において全く調査をなすことを怠った場合には、当該更正はこれをなしうべき前提要件を欠くことになるので違法となるものと解すべきであり、また質問検査権の行使が社会通念上相当と認められる限度を超えて濫用にわたった場合など調査手続に重大な違法があり、しかもその調査のみにもとづいて更正がなされたような場合には、当該更正は調査せずしてなされたものと同視すべきであり、違法として取消されるものと解すべきである。

本件において原告は調査手続の違法を主張するけれども、右に述べたとおり税務署長は過少申告なることを疑うにたりる事情の有無を問わず調査することも何ら妨げられるものではなく、調査の際具体的理由を明示すべき義務もなくまた調査深度の問題にしてもその裁量に委ねられており、いわゆる反面調査の方法を採ることも妨げられるものではない。

そして成立に争いのない乙第一、二号証の各一、二、証人西野泰生の証言および原告本人尋問の結果(一部)によれば、被告は原告提出の係争各年の確定申告書にいずれも売上金額、必要経費の記載がなかったことなどから調査の必要があるとして、昭和四五年の六月下旬ころから八月下旬ころまでの間三回にわたり一宮税務署の職員を原告方へ赴かせたこと、その際原告は右職員の求めにも拘らず係争各年分の営業取引に関する帳簿書類等を提示せず、営業概況などについても明確な説明をなさなかったこと、そのため被告はやむをえず原告の取引先等を調査するなどしたうえ、原告の所得額を推計して本件課税処分を行なったことが認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信することができない。

右認定事実によれば、本件更正処分については被告においてその前提となるべき調査をしなかったということができないことは明らかであり、またその調査手続も調査権の濫用にわたってなされたものとは認められない。そして被告は原告の所得額の実額調査に努めたが、実額計算に必要な帳簿書類などが提出されずやむなく推計課税をなしたものであることが明らかである。

従って本件課税処分の手続的違法をいう原告の主張はすべて理由がない。

三  そこで次に本件更正処分の適否について判断する。

原告が係争年当時一宮市内で繊維受託加工業を営んでいたことは当事者間に争いがない。また別表(一)の所得控除額については原告も格別争わないところである。

従って以下被告主張にかかる係争各年分における原告の営業所得金額について検討する。

1  売上金額

(一)  昭和四三年分

右年分の売上金額が一、九八六、二九二円であることは当事者間に争いがない。

(二)  昭和四四年分

証人酒井常雄、同西野泰生の各証言によれば被告は原告の取引先等を反面調査してもなお昭和四四年分の売上金額を実額により把握できなかったことが認められ、他に右認定を左右するにたりる証拠はない。従って被告が右年分の売上金額を推計によって算出したことは許容されるものというべきである。

そこで次に被告のなした推計方法について考究するに、被告は昭和四三年分につき売上金額を電力使用量で除し、電力一キロワット当りの売上金額を求め、これに昭和四四年分の電力使用量を乗じて昭和四四年分の売上金額を算出する。

ところで証人西野泰生、同酒井常雄の各証言によれば、原告の経営する繊維受託加工業という業種においては特別の事情のない限り電力使用量がその事業規模を示すものであると認められるから、その営業収入金額(売上金額)と電力使用量との間には高度の相関関係が存するものといえる。従って電力使用量を基として売上金額を推計することは、その基礎となる各数額が正確なものである限り合理性があるものといえる。そして証人酒井常雄の証言により真正に成立したと認める乙第六号証、証人西野泰生、同酒井常雄の各証言によれば、原告の昭和四三年分電力使用量は七、二九〇キロワット、同四四年分は八、七五三キロワットであること、原告同様の繊維受託加工業者が親機から受ける加工賃の単価は昭和四三年、同四四年においてさして差異はなく、むしろ昭和四四年は幾分上昇していることが認められるから、右四三年分のキロワット当り売上金額を四四年分に適用し、これを同年分の右電力使用量八、七五三キロワットに乗じ、同年分の総売上金額を算出することは合理的であるということができる。

原告は昭和四四年は同四三年に比べて電力の使用条件が変化しているので被告の推計方法には合理性がない旨主張し、原告本人尋問の結果中昭和四四年は同四三年に比して加工賃単価は安く電力をより多く消費する仕事をした、準備機を一台増設したため同年は電力の使用量が増加しても売上金額はむしろ減少した等の供述部分があるが、これを裏付けるにたりる証拠はなく右供述は措信できない。

従って、原告の昭和四四年分売上金額は、右認定の方法によって算出すると二、三八四、九一二円となる。

(算式 〈省略〉)

2  算出所得率

(一)  昭和四三年分

被告は原告の営業規模と類似する同業者一〇名について昭和四三年における平均算出所得率を求め、これを原告の同年分の算出所得率としたと主張する。

証人酒井常雄の証言により真正に成立したと認める乙第四、五号証、証人西野泰生、同酒井常雄の各証言によれば、被告は一宮税務署管内における繊維受託加工業を営む個人事業者のうち昭和四三年の所得税について青色申告書を提出した納税者で別表(三)の基準にもとづいて抽出した同業者一〇名について同年分の算出所得率を算出するとその平均値は六五・八九パーセントであることを認めることができる。そして被告のなした右同業者の選定方法、右算出所得率の算出方法は同業者の類似性、同業者数および資料の客観性等の諸点からみて合理性を有するものと考えられるので、右算出所得率をもって原告の昭和四三年分の所得率とみることは相当であるということができる。

従って原告の同年分算出所得率は六五・八九パーセントとなる。

(二)  昭和四四年分

被告は昭和四三年分の算出所得率をそのまま昭和四四年分に適用するものであるところ、証人西野泰生の証言によれば原告は昭和四三、四四年とも織機台数、従業員の数などその事業規模においてさしたる変動もなかったことが認められるから、算出所得率について右両年分に何ら差異がなかったものと推認できる。従って昭和四四年分は同四三年分と同じく算出所得率は六五・八九パーセントとなる。

3  算出所得金額

原告の前記各年分の売上金額に前記算出所得率をそれぞれ適用して係争各年分の算出所得金額を求めると、

昭和四三年分 一、三〇八、七六七円

昭和四四年分 一、五七一、四一八円

となる。

4  特別経費

(一)  給料

証人西野泰生の証言によれば、係争各年において原告は家族以外に女子従業員一名を使用していたことが認められる。また、同人に支払った給料の額については原告は何ら主張・立証しないところ、被告は係争各年につき尾西毛織健康保険組合所属の女子組合員の平均賃金をもって右従業員に対する支払給料高とみなしているが、他にその支払額を確定すべきものがない以上、原告と同じ地域の右組合員の平均賃金を本件の場合に適用するのは相当であるというべきである。そして証人小柳津一成の証言により真正に成立したと認める乙第七号証、同証人の証言によれば右組合員の平均賃金は昭和四三年が二四三、五四九円、同四四年が二八三、四三九円であることが認められる。従って、原告の支払給料は

昭和四三年分 二四三、五四九円

昭和四四年分 二八三、四三九円

となる。

(二)  建物減価償却費、地代家賃、借入金利子

右各金額については、いずれも被告主張どおりであることは当事者間に争いがないので、これらを合計すると昭和四三年分六六、一三四円、同四四年分六一、四三一円となる。

(三)  結局特別経費は(一)、(二)を合計し、

昭和四三年分 三〇九、六八三円

昭和四四年分 三四四、八七〇円

となる。

なお、原告は右(一)ないし(二)以外に特別経費として外注工賃が支払われたと主張するが、その具体的金額について主張をなさず、これを認めるにたりる証拠もない。

5  事業専従者控除額

係争各年分ともそれぞれ三〇〇、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

三  以上によれば原告の係争各年分の営業所得金額は別表(二)記載のとおり

昭和四三年分 六九九、〇八四円

昭和四四年分 九二六、五四八円

となる。

よって、本件更正処分による営業所得の認定額が係争各年分とも右各金額の範囲内でなされていることは明らかであるから、本件更正処分は適法であり、かつ昭和四四年の過少申告にかかる加算税賦課決定処分も適法である。

そこで原告の本訴請求はいずれも理由がないから、失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 窪田季夫 裁判官 小熊桂)

別表(一)

課税処分表

〈省略〉

別表(二)

営業所得金額計算表

〈省略〉

〈省略〉

別表(三)

同業者選定基準一覧表

「選定基準」

下記一の(一)ないし(三)のすべてに該当する者のうち、同二の(一)ないし(三)のいずれかに該当する者を除いた者。

一、(1) 原告の昭和四三年分における売上先(親機)からの加工賃が総加工賃収入の五〇%以上のもの。

(2) 年間の加工賃収入が一〇〇万円以上三〇〇万円以下のもの。

(3) 織機台数が二台以上四台以下のもの。

二、(1) 年の中途において開廃業、転業または業態を変更したもの、あるいは他の業種目を兼業しているもの。

(2) 小規模事業者で帳簿組織が簡易な記録方法(現金主義)によっているもの、および期間損益が明確になされているもの。

(3) 更正または決定処分が行なわれたもののうち、国税通則法の規定に基づく不服申立期間および出訴期間を経過していないものならびに不服申立または出訴中のもの。

別表(四)

算出所得率計算表

〈省略〉

(注) 小数点以下第三位以下切捨

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